衛生問題研究分科会 Q&A

『ゴムによる健康被害防止に製品表示やMSDSがどう活用されているか』
衛生問題研究分科会では、平成15年6月17日(火)に下記のシンポジウムを開催し、Q&Aコーナーでは『ゴムによる健康被害防止に製品表示やMSDSがどう活用されているか』について、講師や衛生問題研究分科会員と受講者が活発に討議いたしました。その内容をとりまとめたものを公開いたします。

【プログラム】

第94回ゴム技術シンポジウム
「ゴムによる健康被害防止のために製品表示、MSDSを活用していますか?」
−Q&Aコーナーでのホンネのトークに参加を!−
衛生問題研究分科会では、「ポジティブリスト」の改訂に引き続いて、ゴム添加剤 (ゴム薬品)及びゴム製品の製品表示、化学物質等安全データシート(MSDS)の 過去及び現在の状況を比較しながら、製品情報の伝達システムとして、ゴムによる健 康被害を防止するうえで何が不足していたか、今後どう改善していけばいいか等の検 討を進めています。製品表示、MSDS等を通じて、ゴム添加剤、ゴム製品の毒性試 験データだけでなく、ヒトでの健康被害情報についてもメーカーからメーカーへ、 メーカーから消費者へきちんと伝達され、十分理解されていくシステムを確立するこ とがゴールです。分科会活動を紹介するとともに、Q&Aコーナーでは多くの受講者 との「本音のトーク」を歓迎します。ご来場をお待ちしております。

日 時 平成15年6月17日(火)
場 所 東部ビル5F会議室
   
13:00-13:10 開会の挨拶
 
衛生問題研究分科会主査 鹿庭正昭
13:10-13:50 ゴム製品による健康被害の発生実態
 
国立医薬品食品衛生研究所 鹿庭正昭
13:50-14:30 ゴム薬品の新旧MSDSの比較(どう改善されてきたか)
 
衛生問題研究分科会・MSDSグループ
川口化学工業 小玉英一
14:40-15:20 ゴム製品の表示の変遷―使用上の注意等―
 
衛生問題研究分科会・製品表示グループ
国立医薬品食品衛生研究所 鹿庭正昭
15:20-16:00 消費者の製品表示の理解度
 
消費生活アドバイザー・コンサルタント協会
辰巳菊子
16:15-17:15 Q&Aコーナ−
 
回答者 講師および衛生研究分科会会員
17:15 閉会の挨拶
 
衛生問題研究分科会副主査 松永孝雄

Q&A コーナー

日本において、アレルギー感受性の敏感な人は何%くらいですか。大人の場合、子どもの場合ではどうでしょうか。今後、アレルギー感受性の高い人は増えていくのでしょうか。
即時型(I型)アレルギーとしては、食物アレルギー、花粉症、喘息などが知られ、天然ゴム製品によるラテックスアレルギーは新しいタイプです。遅延型(IV型)アレルギーとしては、ゴム製品、化粧品、金属、植物などによるアレルギー性接触皮膚炎が知られています。その他に、アトピーという複合型のアレルギーのタイプがあります。 アレルギー患者の存在率については、調査の母集団が病院を来診した患者の場合には数値がかなり大きくなります。個々のアレルギー症状ごとに考えていくのが妥当ではないかと思います。また、大人と子どもの比較としては、子ども(特に乳幼児)の場合、皮膚のバリア機能が完成していないことから、化学物質による影響をより強く受ける可能性があると言えます。最近の社会問題として人とストレスの相互影響について取り上げられています。内分泌系、神経系だけでなく、免疫系もストレスの影響を受けやすいと言われていますから、今後、免疫系の乱れとしてアレルギー感受性が高くなった人が増える可能性はあるといえます。
医療用天然ゴム製品では、アレルゲンが低減化されているラテックスアレルギー対策品が増えてきているようですが、今後、その他のゴム製品(アレルギー事例があるもの)について、厚生労働省の規制・指示などがあるのでしょうか。
ゴム製品によるアレルギーとして、このところ話題の中心になっている即時型(I型)アレルギーのラテックスアレルギーだけでなく、遅延型(IV型)アレルギーのアレルギー性接触皮膚炎が従来からよく知られています。 ラテックスアレルギーの原因は天然ゴム由来の水溶性タンパク質であり、食物アレルギー、花粉症とともに、代表的な「タンパク質によるアレルギー」です。医療用具については、天然ゴムを含有することを表示することが薬事法によって義務づけられています。その対策品として、タンパク質を低減化した天然ゴム製品、水溶性タンパク質を含まない合成ゴム製品、熱可塑性樹脂製品などが有効で、市販されています。 一方、遅延型(IV型)アレルギーのアレルギー性接触皮膚炎については、アレルギー性を有する加硫促進剤、老化防止剤などのゴム添加剤が原因化学物質として確認されており、かなりの数の事例が報告されています。しかし、現在、法的な規制はありません。その対策品としては、それらのIV型アレルギー性物質を使用していないゴム製品(ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)が出回っています
手袋中の原因物質の量とその対策は何かありますか。
I型アレルギー、IV型アレルギーともに、製品中の原因化学物質(タンパク質、ゴム添加剤)の量が多いほど、その製品を使用することで新しい患者を生み出す可能性が高く、既に存在する患者における反応が強くなり、重症化する可能性が高くなるといえます。 したがって、いずれのアレルギー対策品においても、患者が原因化学物質を含まない製品を選び、使用できることが重要です。そのためには、ゴム製品について、材質(天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性樹脂、プラスチックの別)とともに、I型・IV型アレルゲンが含まれているかどうかが製品表示されていることが必要です。 そのように、製品のゴムアレルゲン情報を具体的に表示することによって、それらの製品情報をもとに、患者を含めた使用者が自分に合った製品、すなわち健常者用、中程度・軽度の患者用、重症患者用の製品をきちんと選ぶことができ、ゴムアレルギー発生の未然防止につなげることができると言えます。
水溶性タンパク量が低減化された天然ゴムの動向と問題点があれば、教えてください。
天然ゴム製品中の水溶性タンパク質を低減化させる方法として、熱水処理、酵素分解処理、パウダーフリー化(塩素処理後に水洗)、樹脂コーティングなどが行われています。水溶性タンパク量が50 ug/g以下となった代替品では、軽度、中程度のラテックスアレルギー患者では使用可能でしたが、高度に感作された患者では、陽性反応を示してしまい、代替品としては、合成ゴムなど、水溶性タンパク質を全く含まない製品しか有効でなかったことが確認されています。
ジチオカーバメート(DTC)系加硫促進剤をドライラバーに使用した場合、アレルギー性接触皮膚炎(ACDの事例報告はあるでしょうか。
遅延型(IV型)アレルギーの原因物質であるDTC系加硫促進剤を使用した場合には、ラテックスゴム製品、ドライラバー製品いずれにおいても、ACDを発生する可能性が存在します。ただし、使用されたドライラバー製品について、使用濃度が高いほど、また、用途によって使用者との接触頻度が高いほど、ACDが発生する可能性は大きくなります。
MSDSを通じた、最終製品の製品表示までの流れを説明していただきました。タイヤやゴムホースなど、常時手に触れることがない製品についても、ゴム薬品(CBS, MBTなど)のアレルギー性について製品に表示すべきでしょうか。たとえば、「タイヤの配合剤にアレルギー性あり」という有害性情報について、タイヤのカタログや自動車のカタログに記載すべきでしょうか。それとも、手に触れる可能性が少ないので、製品表示しなくてもよいのでしょうか。
自動車に使用されるゴム部品のうち、手に触れる頻度から考えると、軸受け部品、ラジエーターホースなどのゴム部品では、職業的に触れる機会がある修理工などでACD事例が報告されていますが、一般使用者での事例は報告されていません。一方、タイヤの場合、一般使用者もタイヤを洗ったり、タイヤを交換する時など、手に触れる機会がないとはいえません。したがって、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、メルカプトベンゾチアゾール系加硫促進剤など、アレルギー性物質であることが報告されているものが使用されている場合には、製品表示、タイヤ・車のカタログなどに記載しておくべきだと思います。
ジオクチルフタレート(DOP)などのフタル酸エステルなど、環境ホルモンによる健康被害の事例報告はあるでしょうか。
フタル酸エステルは、ポリ塩化ビニル(PVC)製品に可塑剤として主に使用されますが、ゴム製品等、幅広い高分子製品に軟化剤として使用されます。そのため、人がフタル酸エステルと接触する可能性は予想以上に多く、フタル酸エステルによる有害な健康影響(具体的には、精巣毒性)について、社会的に注目されています。特に、透析患者などが使用するPVC製の医療用具、発達過程にある乳幼児が使用する歯がため・おもちゃなどの製品への使用については、議論を呼んでいます。 一方、フタル酸エステルの内分泌かく乱作用(いわゆる環境ホルモン作用)については、人において内分泌系をかく乱したことによって有害な健康影響が実際に発生したという事例報告はないようです。  また、フタル酸エステルによって、精巣への影響が実験的にげっ歯類(ラット)で認められています。こうした変化は高濃度曝露でのみ発生しており、内分泌系のかく乱作用を介したものではなく、精巣の細胞への直接的な毒性によるものと考えられています。なお、サルでは精巣への影響は認められなかったという報告もあります。また、環境省のSPEED98にリストアップされたフタル酸類についてラットを用いて詳細に検討されましたが、いずれのフタル酸エステルにおいても環境ホルモン作用は認められなかったと報告されています。 したがって、現在、人に対してフタル酸エステルが環境ホルモン作用によって実際に健康被害を生じるとは考えられないことが明らかになりつつあります。しかし、フタル酸エステルが可塑剤・軟化剤として有用で、身近な製品に多く用いられる物質でもあることから、関連企業あるいは業界団体では、今後もなお安全性評価を継続していくこととしています。
―会場からの質問―
臭気成分など、微量成分の影響について、どこまで対応すべきか。
ゴム製品の臭気については、製造現場だけでなく、最終ゴム製品の保管・販売などの流通段階、さらには使用段階でも、強いゴム臭が問題視され、ゴム臭の低減化は従来から検討されてきた課題の1つといえます。しかし、現在、化学物質過敏症に関連して問題とされているゴム臭の濃度レベルは、従来問題とされた臭気レベルよりも格段に低濃度でもクレームとして挙がってくる可能性をもっています。 この臭気問題に対して、メーカーとしてどこまで対応するかは、単純に「ゴム臭の濃度レベル」だけの問題にせず、そのゴム臭によって、「だれ」が、「どのような健康被害」を、「どのような症状(程度)」で、「どのようなゴム製品」、「どのような化学物質」によって発生したのか、あるいは発生する可能性があるのかという実態をきちんと整理・把握することが大切だと思います。 さらに、実際に発生した健康被害から、「現実に、何が起こっているか」を学ぶことが重要です。すなわち、健康被害事例をきちんと追跡し、原因をはっきりさせ、製品の改良につなげる努力をすることが重要です。 そのためにも、製品表示として、紋切り型の「使用上の注意」にとどまらず、ゴムアレルゲン情報、実際の健康被害事例に関する情報を成分表示、使用上の注意などとして具体的に記載していくことが不可欠ではないかと思います。
ゴム製品中に使用されているアレルゲン表示として、どのような内容をどこまで表示すべきか。
メーカーから消費者への情報伝達に対して、「できるだけ多くのことを伝えてほしい」、「具体的な内容を伝えてほしい」、「実際に発生している健康被害事例などを伝えてほしい」、「わかりやすく伝えてほしい」というのが、代表的な消費者からの声です。 そのためには、ゴム製品に関する化学物質情報、安全性情報などをメーカーからメーカーへ伝える手段として現在流通している、化学物質等安全データシート(Material Safety Data Sheet, MSDS)、製品情報シート(Article Information Sheet,AIS)の内容の質が問題になります。健康被害を防止するうえで、メーカー間で、健康被害の原因化学物質に関する製品情報がきちんと共有化されているかどうかがポイントとなるからです。 現在流通しているゴム添加剤に関するMSDSの内容については、衛生問題研究分科会で調査したところ、有害性情報などの記載内容もかなり充実・整備されています。ただし、具体的な健康被害、すなわち、どのようなゴム製品によって、どのような健康被害が発生したことがあるかについては、ほとんど記載されていない点は、製品表示を具体的に記載するうえで、今後改善すべき重要な課題といえます。 一方、メーカーから消費者への情報伝達手段としては、消費者にとって、店頭でゴム製品を手に取ったときに、製品表示は唯一の製品情報といえます。しかし、製品のパッケージは面積に限りがあり、多くの内容を記載しようとすると、字が細かくなってしまい、せっかく丁寧に記載した製品表示が誰も読んでくれない代物になってしまいます。 メーカーから消費者への情報伝達手段として、製品パッケージ上の表示には、業界・メーカーから消費者にぜひとも伝えたい選りすぐりの内容、逆に消費者が業界・メーカーから伝えてほしいと思っている内容(連絡先、使用上の注意、健康被害情報など)を簡潔に、具体的に、わかりやすく、大きな字で記載するようにすべきです。より詳細な製品情報については、製品タグ・パンフレット・リーフレットなどの紙媒体を添付したり、連絡先(メーカー、業界団体)を通じて製品情報を入手できるようにします。さらに、メーカー・業界団体のホームページなどの電子媒体を通じても、製品情報を入手できるようにホームページのリンクを用意します。 このように、メーカーから消費者への情報伝達手段を複数組み合わせることで、ポイントとなる情報を理解しやすくなるとともに、さらに詳しい情報がほしい場合には容易に追跡できる情報伝達システムが完成します。それは、メーカーにとっても伝えたい情報が十分伝えられるスペースを確保でき、消費者にとっても製品情報をより理解しやすい形で受け取ることができるようになります。
―講師からのコメントー
<ゴム製品におけるアレルゲン対策の現状>
<ゴム製品の表示などの情報提供についての要望>